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フェラーリの偉大なる革新:E-Diffとサイド・スリップ・コントロール

ラップ・タイムがすべての世界で、フェラーリのシャシー制御とドライビング・ダイナミクス革新がレースの流れを変えてきました
文 - ジェーソン・バーロウ
動画 - Oliver McIntyre

エンツォ・フェラーリはさまざまな才能に恵まれていましたが、彼の知名度を特に高めたのは、ウィットに富んだ辛辣な発言をすることでした。今の時代なら、SNSを楽しんでいたことでしょう。

フェラーリの値段はエンジンの値段であって、それ以外はおまけだと語ったのも有名です。

エンジンは今もフェラーリの心臓として鼓動し続けていますが、各種のコンポーネントとアルゴリズムが複雑に絡み合っているネットワークの一部にすぎないとも言えます。また、フェラーリの魔術師たちが手がけるシャシー制御とドライビング・ダイナミクスは、実際に体験して初めて理解できます。

E-diffは2004年のF430に登場し、F1からロードカーに移行するテクノロジーの代表的な例です

例を挙げていきましょう。2004年のF430に搭載されたE-Diff(電子制御デフ)は、F1マシンからロードカーに移植されたテクノロジーの代表例と言えます。このE-Diffは、コーナリング時のグリップを最適化することでトラクション・ロスを低減し、高速走行時のロードホールディング性能を向上させます。


油圧アクチュエーターで制御される2組のフリクション・ディスクで車輪間のトルク配分を行い、ステアリングの舵角、スロットル・ペダルの踏み込み量、ヨー(垂直軸を中心とした車両の回転)の大きさなどによって伝達されるトルクの量を調節するという仕組みです。

「e-diff」と「サイド・スリップ・コントロール」のストーリーと、それらが車のダイナミクスに与える影響をご覧ください

フィオラーノ・サーキットでのラップ・タイムは、フェラーリ・マシンがどれだけ進歩しているかのバロメーターです。F430は先代の360モデナよりラップ・タイムを3秒も縮めました。これは、ドライバーがマシンのレスポンスを信頼していることの証です。信頼こそがキーになります。しかし、エレクトロニクスも重要です。


以来、驚異的な軌跡をたどり、ハードウェアがソフトウェアによって大きく進化するという新たなパラダイムが確立しました。フェラーリのサーキット志向マシンは、最新技術の実験台になることも多く、2008年の430 Scuderiaは、多くのフェラーリ・ファンやオーナーの注目を集めました。


ミハエル・シューマッハが開発に深く関わったことで、魔法の粉が惜しみなく散りばめられています。それに加え、E-Ⅾiffも599GTBのF1-tracトラクション・コントロール・システムを参考にしながら再設計されています。

430 Scuderia のE-diffは、599GTBのF1-tracトラクション・システムを採用するように再設計されました

その真意は、「制御」ではなくトラクションの「最適化」です。manettinoを「レース」モードにすると、430 Scuderiaはスタートしてから走りのクライマックスに達するまで、ドライバーの意のままになります。アンダーステアを最小限に抑えながら、フィードバックを最大限に享受することが可能です。E-Diffとトラクション・システムのシームレスな連携により、フルスロットルの状態でコーナーを脱出することができます。


現代のロード・テスターにとって、あまりにも素晴らしく、超現実的にさえ感じられます。また、フェラーリのロードカーの進化において重要な瞬間にも感じられました。そして、その感覚は正しかったのです。続いて登場した458 Specialeは、最強のV8自然吸気エンジンをミッドシップ・レイアウトした、最も新しいフェラーリ・モデルであるとともに、サーキット志向の血統を受け継ぐ伝説的な1台でもあります。

488 Pistaは、サイド・スリップ・コントロールとフェラーリ・ダイナミック・エンハンサーを組み合わせて使用し、ブレーキを効かせます 

同時に、サイドスリップ・アングル・コントロール(SSC)を採用した最初のフェラーリでもあります。このアルゴリズムによって、車両のアングルとコーナーのアングルを効果的に比較し、E-DiffやF1-tracと連動しつつ、あらゆる変数を瞬時に調整し、ダイナミクスをさらに押し広げるのです。ハイテクであると同時に有機的でもあり、史上屈指の名車と言えます。


純粋主義者は、ドライビング・エクスペリエンスの神聖さを妨げる要素を軽視しがちですが、この分野におけるフェラーリのイノベーションは、拒む余地がないほど完成度が高いのです。シャシーの電子制御は非常によく調整されており、有能なドライバーも限界に迫るドライビングに満足できるでしょう。


またシステム介入は、気付くことがほぼ不可能です。重要なのは、この技術によって車のダイナミックな領域を多くのユーザーが利用でき、安全性が向上することです。さらに、天性のドライビングセンスに恵まれていなくとも、スピンせずに適度なオーバーステアのスライド(YouTube的にはドリフト)を維持できるのです。

トラック志向の Ferrari 430 Scuderia は、ファンとオーナーの両方にとってハイポイントであり続けます

488 GTB、F12tdf、488 Pistaには、進化したサイド・スリップ・コントロールが採用されています。さらにPistaでは、新たにブレーキ圧を調整するフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE)も搭載されました。このシステムは、SSCのアルゴリズムに基づいてヨー・モーメントを予測し、ダイナミクスECUと連携して各ホイールに必要なブレーキ圧を導きます。非常に複雑なシステムですが、結果としてダイナミックの調和を実現しています。そして、運転すると本当にワクワクするのです。


さらに、フェラーリは新しいモデルを発表するたびにレベルを引き上げています。その意思が最も顕著に示されているのは、現在のトップモデル、SF90Stradaleでしょう。ハイブリッドとして、様々な可能性を秘めており、そのすべてを緻密にネットワーク化する必要がありました。例えば、MGUK、バッテリー、インバーターなどの高電圧システム制御、エンジンとギア・ボックス、ビークル・ダイナミクスの設定などです。また、新しいeSSC(エレクトリック・サイド・スリップ・コントロール)は、3つの主要パラメータにおいて、エンジン・トルクを調整し、4輪に分配制御します。


これには、トラクションコントロール、ブレーキ・バイ・ワイヤー(ブレーキ・トルクは従来の油圧システムによるものと、エレクトリック・モーターによるものとを融合させる必要があります)、コーナリング時にイン側とアウト側ホイールにかかる力を管理してトラクションを最大化するトルク・ベクタリングが含まれます。


間違いなく非常に高度な技術です。しかし、現代におけるアルゴリズムとその役割に関して見解は様々あれど、フェラーリの手にかかれば大きな革新となることに間違いありません。