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車輌

フェラーリの偉大なる革新:エアロダイナミクス

フェラーリが過去75年にわたって紡いできたロードカーの物語、少なくともそれは空気をコントロールすることについての物語でもあります
文:ジェイソン・バーロウ
動画:Oliver McIntyre

車体の周囲を流れる空気をコントロールする、それはフェラーリのミッションの中核に位置付けられています。

エンジン部品の冷却や放熱に不可欠な要素であるだけでなく、高速での操縦安定性を実現するうえで無視することのできないことでもあるからです。

車両のデザインには、つねに空力が考慮されてきました。1920年代後半から30年代前半にかけての車両を見ても、当時の自動車デザイナーらが「ストリーム・ライニング(流線型)」というアイデアに夢中であったことが分かります。そして、流線型やティアドロップ型などの機体を有する航空機の影響を受け、空気抵抗を最小限に抑えられるように設計された車が誕生したのです。


しかし、これは空気をコントロールするという目的の一部を実現したに過ぎず、フェラーリの先駆的なエンジニアたちがダウンフォースなどの概念に本格的に取り組むようになったのは、1960年代初頭のことでした。

V12、時速280 kmの250 GTOは、1962年にスポイラーなしで発売されましたが、米国セブリング・サーキットでのレース・デビューのために1つ設置されました

現在のようなスポイラーは、画期的なモデルである250 GTOの誕生によって初めて目にするようになりました。モデル名に含まれる「O」の文字は「omologato」を示すもので、この車が考案された過程を表しています。当時エンジニアとして活躍していたジオット・ビッツァリーニが250 GTOの開発を担当。彼は最初に250 GTを改造することでプロトタイプを製作し、それを「パペラ(Papera)」と呼びました。彼は1961年の末にフェラーリを去ってしまいましたが、エンツォ・フェラーリは、マウロ・フォルギエリという若き天才技術者と一緒にこの仕事を完結させるよう、セルジオ・スカリエッティに命じます。その詳細については、いずれ彼の口から語られることでしょう。


1962年2月24日にメディアに公開された車両では確認ができなかったものの、GTOのリヤ・エンドはその後すぐに進化し、ドイツの空力学者ヴニバルト・カムが提唱する「カム」テールの形状になりました。テールをスパっと切り落とした形状にすると、気流が維持されるとともに抗力が小さくなることだけでなく、揚力も抑えられ、気圧の低い部分が生み出されることを彼は発見したのです。GTOに関しては、レースでの結果がすべてを物語っています。タルガ・フロリオ、ツール・ド・フランス、ル・マンで成功を収めるなど、スポーツカーレースにおいて著しい活躍を披露したからです。この車は美しいだけでなく、機能的でもあったと言えます。

高速ハンドリングの安定性を実現するための飽くなき探求を続けるフェラーリ・エアコントロールの75年間の歴史をご覧ください

スポイラーについて言及するとすれば、Ferrari F40のボディを飾るスポイラーが、すべてのスポイラーの中で最も素晴らしいものだと言えるでしょう。車両全体のルックスに欠かせない存在となっているからなおさらです。実際、F40は一つの大きなエアロ・デバイスであるとともに、80年代におけるパフォーマンス・カーの決定版でもあります。フェラーリ史上最も妥協のない1台であることに間違いはありません。


F40の開発プロジェクトをエンツォ・フェラーリに提案したのは、エンジニアのニコラ・マテラッツィです。彼は、288 GTOのエボルツィオーネ仕様をベースにF40の開発を進めました(残念ながら、288 GTOはグループB参戦を一度も果たせませんでした)。このF40はエンツォが監修した最後の新型フェラーリであり、1年強で目的以上のモデルに仕上げられました。


その紛れもないスポイラーと低いボンネットで、F40は事実上1つの大きなエアロ・デバイスです

ピニンファリーナがデザインしたボディには、カーボンファイバー、ケブラー、アルミニウムが使用されています。V8ツインターボは発熱量が多いため、軽量素材を用いたリヤ・ウインドウにはルーバーが設けてあります。そして、あの巨大なリヤ・スポイラー。ピニンファリーナのチーフ・デザイナーを務めたレオナルド・フィオラバンティは、「私たちは、この仕事に全力投球した」と振り返ったうえで、次のように話しています。「フェラーリ史上最もパワフルなロードカーを開発するにあたってその車にふさわしい係数を実現するため、風洞で広範な研究を行いながら、エアロダイナミクスの最適化に努めました。その結果、車両のスタイリングと性能を両立させることができたのです。オーバーハングをきわめて小さくした低いボンネットやNACAエア・ベント、そして同僚のアルド・ブロヴァローネが直角に配置したリヤ・スポイラーは、この車を有名にした特徴でもあります」。


もちろん、エアロ・デバイスにはさまざまな形や大きさのものがあります。例えば599 GTBの場合、リヤの印象的なバットレスは、当初、ピニンファリーナでの開発時にデザイン・モチーフとして考案されたものでしたが、その後、フェラーリに在籍するエアロダイナミクスの専門家が研究を重ねた結果、リヤに空気の渦を作ることで、空気抵抗を増やすことなくダウンフォースを生み出せることが明らかとなったのです。

458 Specialeは、コーナリング時または高速ストレートを走る際など目的に応じて形状を変化させることが可能です

599 GTOの場合はF1やXXプログラムの経験が設計に生かされているため、そのレベルは新たな次元に達しています。フロントで発生する「後流」の幅を狭めて抵抗を減らし、スプリッターによってそのエア・フローを車両の後方へ向けられる仕組みになっているのです。これによってエア・フローをいつも同じ位置で分離させることが可能となり、効率性が最大限に高められました。


こうした進化はスポイラーに限ったことではありません。458 Italiaに備わる「空力弾性」可変フロント・ウィングレットや、姉妹車の458 Specialeを特徴づけるアクティブ・エアロなども、エアロダイナミクス関連の装備として最近注目を浴びています。これらのエアロダイナミクス装備は目的に応じて形状を変化さることが可能で、コーナリング時にはダウンフォースを発生させ、ストレートを走る際には空気抵抗を低減させます。また、このSpecialeには、フロント・バンパーの左右に特徴的なターニング・ベーンが設けてあるほか、ダウンフォースを増大させるための小さなエアロ・フィンがリヤ・ホイールの前方に備わっています。加えてリヤ・スポイラーも再設計されていて、表面積が拡大されています。

1000 cv、時速340 kmのFerrari SF90 Stradaleは、固定のエレメントとアクティブ・フェアリングを組み合わせた2ピースのリヤ・ウィングを備えています

こうした流れはF8 Tributoへと続きました。この車のフォルムには、フェラーリがGTレースやチャレンジ・レースで培ったエアロダイナミクスについてのノウハウが活かされています。488 GTBに比べて効率性が10%向上した。488 Pistaで初採用されたSダクトによってエア・フローが整流されるようになった。フロント・アクスルに対してのダウンフォースが増大した。これらは、そうしたノウハウが活かされた結果です。また、ブレーキ冷却用の空気を取り込むためのインテークをヘッドランプの上部に設けたことや、リヤのブロウン・スポイラーとターニング・ベーンを再調整して空気抵抗を増やさずにダウンフォースを増加させたこと、さらには、アンダーボディにボルテックス・ジェネレーターを追加したことなども見逃せません。


フェラーリのチェントロ・スティーレ(デザイン・センター)では、エアロダイナミクスへのあくなき追求と素晴らしいルックスの車づくりを両立させるため、たゆまぬ努力を続けています。そうした中で生み出されたSF90は、現在の最先端を行く1台であると言えるでしょう。数ある革新的装備の中でも2ピース構造のリヤ・ウイングはこの車の注目すべき装備であり、固定のエレメントとアクティブ・フェアリングを備えている点が特徴です。


通常の状況では2枚のピースが揃っていて、その下を空気が流れるようになっています。しかし、急なコーナリングやブレーキングの際には、アクティブ制御のパーツが下がってギャップを閉じ、ダウンフォースを最大限に高めるのです。このリヤ・ウイングは、SF90のフロント・アンダーボディと連動して車の走りに作用します。アンダーボディにはV字のエリアが設けられていて、それが車体を路面に押し付ける効果をもたらしますが、リヤのフェアリングによってダウンフォースが最大限に高められると、車体はいちだんと強力に路面へ押し付けられるのです。


科学はもちろん魅力的です。しかし、フェラーリほどそれを魅力的に見せることなど誰もできないでしょう。