1969年の2月から10月にかけて生産された365 GTSは、365 GT 2+2や365 GTCと同じ洗練された機構を備えたクルマでした。3基のウェバーキャブレターが燃料を供給する60°V12は目覚ましくトルキーで、汲めどもつきぬパワーを秘めていました。5速ギアボックスをリアにマウントすることで、前後アクスルにかかる荷重を均一にしていたことが特徴です。エアコンとワイアホイールがオプションで用意された365 GTSは、わずか20台生産されたにすぎません。
1968年終盤、365GTS“スパイダー”が330GTSに取って代わった。ただし第1号車が製作されたのは1969年に入ってからのことだった。外観は先代モデルとほぼ同一だが、フロントフェンダーのサイド部にあったエンジンの熱気抜きスリットが姿を消し、代わりにボンネット後端部の左右コーナー近くに黒いプラスチック製の台形をしたルーバーパネルが備わった。
これ以外、唯一の外観上の違いは、330GTSのトランクリッドには“Ferrari”のエンブレムの下に“330”というエンブレムが並んでいたのに対し、365GTSでは“Ferrari”のエンブレムだけになったことである。
室内に目を移すと、ダッシュボードとセンターコンソールに細かな変更が施されており、そのなかでもっとも目立つのはダッシュ上部の中央に、風向きを変えられるデミスターの吹き出し口が追加になった点だ。330GTS同様、ボディはトリノにあるピニンファリーナの工房で組み立てられ、内装の取りつけを完了した状態でフェラーリに納められ、メカニカルコンポーネントの組み付けが行われた。
フロントスクリーンのトップレールに組み込まれた1組のクリップが、365GTSのソフトトップを立てた状態で保持する。一方、シート背後のくぼみに収納したときにはその上にビニール製の保護カバーがかかる。これ以外は姉妹車である365GTCと同一だ。ボディは、社内コードネームティーポ592Cと呼ばれた、ロードカー用の奇数のシャシーナンバーが打刻されるチューブラースチールシャシー上に架装された。ホイールベースは2400 mm、シャシーナンバーは12163から12493にいたる。なお、365GTSはすべて左ハンドルである。メカニカル部分での変更はエンジン排気量だけなので、レイアウトは先代モデルとほぼ同一だ。標準のホイールも先代モデルに用いられたのと同じ10穴の軽合金ホイールで、ボラーニのワイアホイールがオプションで注文できた点も変わりはない。
エンジンは330GTS用の拡大版で、365GTSが発表されたときにすでに生産が始まっていた365GT2+2に搭載されたユニットと同一だ。社内コードネーム245/CのSOHC V12 は81mm x 71mmのボア・ストロークから4390ccの排気量を得ていた。ツインチョークウェバー40 DFI/5か、40 DFI/7キャブレターを3基備え、点火コイルは2個、エンジン後方にディストリビューターが2個マウントされていた。公表出力は320hpである。
365GTSと姉妹車の365GTCは、発表時、SOHCヘッドを備えるエンジンを搭載していた最後のフェラーリとなる。確かに365GTCの生産が終わった後も365GT2+2の生産は続いたが、365GTCが発表されたとき、365GT2+2はすでに生産に入っていたからだ。365GTSは330GTSと同じ5速トランスアクスル・トランスミッションと独立リアサスペンションを共用しており、60年代幕開け以降のすべてのフェラーリ同様、4輪ディスクブレーキを採用していた。なお、ケーブル作動のパーキングブレーキは後輪に効いた。
365GTSの生産期間はごく短く、1969年にはカタログから落とされた。生産台数はわずか20台で、この時代の希少なモデルのひとつとなっている。