365 GTCのデザインは基本的に330 GTCの最終型と同じで、エンジンベイの熱気抜きアウトレットがフェンダーサイドからボンネットに移動したことだけが大きな違いとなります。むしろメカニズムを洗練させたことに大きな意味があるようです。新型の大型V12は中間回転域のトルクが厚くなり、フレキシブルで、素早い加速をもたらしたこのモデルは、約200台が作られました。
365GTCクーペと365GTSスパイダーは330GTCと330GTSの後継車として1968年下旬に登場します。外観は先代モデルと事実上同じですが、フロントフェンダーサイドのエンジンベイ熱気抜きアウトレットが廃止になり、ボンネット後端部の左右に、台形をした黒のプラスチック製ルーバーパネルが備わります。
また、330GTC/Sのトランクリッドには、フェラーリのロゴエンブレム下に“330”と記した小さなエンブレムが付いたのに対し、365GTC/Sではフェラーリのロゴエンブレムのみになりました。室内では、ダッシュボードとセンターコンソールに小さな変更が加えられています。もっとも目立つのはダッシュトップ中央に丸形の向きを変えられるデミスターアウトレットが2本追加になったこと。330GTC/S同様、ボディはトリノのピニンファリーナファクトリーで製作され、内装の取り付けが完了した状態でフェラーリに出荷され、メカニカルコンポーネントが取り付けられました。
ボディはホイールベース2400mmのティーポ592 Cシャシー上に構築、すべてロードカー用の奇数のシャシーナンバーが打刻されています。基本的なレイアウトは事実上、330GTC/Sと同一で、機構部分の変更はエンジンの拡大だけです。365GTCと365GTSともに左右どちらの仕様のハンドルも選ぶことができましたが、365GTSは生産期間が短かったこともあり、生産されたのはすべて左ハンドルでした。標準ホイールは先代モデルと同じ、軽合金の10穴デザインで、ボラーニ製のワイアホイールがオプションで用意された点も同じです。
エンジンは330GTC/S に搭載されたユニットの排気量拡大版で、スペックは、365GTC/S が発表になったときにすでに生産されていた365GT2+2と事実上同一。各バンクに1本のカムシャフトが走るV12で、社内コードネームはティーポ245/C、81mm x 71mmのボア・ストロークから4390ccの排気量を得ています。キャブレターは、3基のツインチョーク ウェバー40 DFI/5 か40 DFI/7のどちらかを備えました。点火は2基のコイルにより、やはり2基のディストリビューターはエンジンの後方にマウントされ、公表出力320bhpを発生しています。
発表時の365GTC/Sは、SOHCエンジンを搭載する最後のフェラーリとなります。確かに365GTCの生産が終わった後も365GT2+2の生産は続きましたが、365GTCが発表されたとき、365GT2+2はすでに生産に入っていたのです。365GTC/Sは同じ5速トランスアクスルトランスミッションと独立リアサスペンションを330GTC/Sと共用しており、60年代初頭以降のすべてのフェラーリ同様、4輪ディスクブレーキを採用していました。なお、ケーブル作動のパーキングブレーキは後輪に作動します。
365GTCと365GTSの生産期間は短いものでしたが、その大きな理由はアメリカの排ガス規制でした。比較的少量生産のこのモデルが規制に対応するにはコストの問題が伴ったのです。365GTSは1969年中にカタログから落ち、そのときまでに作られたのは20台。一方、365GTCの生産は1970年まで続き、168台が作られました。