275 GTBのスパイダー版であるピニンファリーナデザインの275GTSは、リア独立サスペンションとリアマウントのギアボックスを共用しています。V12の潤滑はウェットサンプになりましたが、パワーはベルリネッタより20bhp落とされています。クルマの性格とターゲットにする顧客層からして、最高出力よりトルクと柔軟性を重視したからです。275 GTBには軽合金ホイールが付くのに対し、275 GTSにはワイアホイールが装着され、エレガントな外観を演出していました。
275GTSスパイダーは275GTBと並んで1964年のパリ・サロンに展示されました。250GTカリフォルニアの生産が1963年序盤に終わって以来、ほぼ2年間のブランクを経てフェラーリのカタログにオープンモデルが戻ってきたのです。
メカニカルなレイアウトはベルリネッタとほぼ同じですが、ピニンファリーナのボディはまったくの別物。それに、ピニンファリーナがデザインしたベルリネッタボディはモデナにあるスカリエッティが製作したのに対し、スパイダーボディはトリノのピニンファリーナファクトリーで組み立てられ、内装まで完成した状態でフェラーリのファクトリーに送られ、そこでメカニカルコンポーネントを組み込んだのです。
275GTSスパイダーのラインはベルリネッタと比べるとソフトかつ保守的で、ノーズは250GTカリフォルニアを模しています。奥行きの浅い、ほぼ角形の格子パターングリルが特徴で、全幅にわたるバンパーにオーバーライダーが付きます。浅いくぼみにオープンヘッドライトが収めました。フロントのフェンダーラインはほぼ直線を保ちつつキャビンに至り、リアフェンダーでかすかに持ち上がった後に角を丸めたテールパネルへと落ち込んでいきます。テールパネルにはラップラウンドのテールライトが水平に付き、表面にラバーを貼り付けたオーバーライダー付きのコーナーバンパーが備わります。1965年に330GT2+2がスタイルの改変を受けた際、275GTSのノーズも同じように変わりました。このとき、330GT2+2も275GTSも、フロントフェンダーに11本あったルーバーが3本になり、前端と上下にアルミ磨きだしのストリップが備わっています。折りたたみ式の幌はキャビン後部のくぼみに収まり、降ろした際はクリップオンのカバーで固定することができました。
ベルリネッタ同様、ボディはホイールベース2400mmのシャシー(ティーポ563)上に架装されました。すべてロードカー用の奇数のシャシーナンバーが打刻され、275GTBと同じく左右どちらのハンドルも選ぶことができます。標準のホイールは生産期間を通じてボラーニのワイアホイールでした。
生産期間中にハードトップがオプションになったもののほとんど出荷されず、今日では希少アイテムになっています。ごく初期型には“ツイン”パッセンジャーシートが備わりました。非常に幅広のシートで2人が座れたのですが、アイディア倒れに終わり、通常の2座席に取って代わられました。
エンジンは275GTBと同じ、各バンクに1本のカムシャフトを持つV12で、社内コードネームはティーポ213、77mm x 58.8mmのボア・ストロークから3286ccの排気量を得ていました。キャブレターは3基のツインチョーク・ウェバー40 DCZ/6か、ウェバー40 DFI/1。点火は2基のコイルにより、ディストリビューターはエンジンの後方にマウントされます。公表出力は260bhpでベルリネッタと比べて20bhpダウンしており、このモデルが抑制のきいたモデルであることがわかります。トランスミッションとサスペンションのレイアウトもベルリネッタと同じで、5速のトランスアクスルと、全輪独立サスペンションを備えます。ただし強固なトルクチューブを用いた動力伝達方式は採用になりませんでした。生産期間は1964年後期から1966年始めまで、シャシーナンバーは06315 から始まり08653までとなります。