カー・デザイナーは自分の作品を擬人化します。車両のフォルムを表現するにあたっては、そこにヒントを与えた存在として、トラ、チーター、サメ、さらにはスターティング・ブロックに足を掛けるオリンピック・スプリンターなども頻繁に引用します。私たちは、自分らが目を向けているものを理解するとき、それらを何かに見立てる必要があるのでしょう。
となると、車に「顔」があるという考え方、特にヘッドランプの果たす役割はとても興味深いものになります。ヘッドランプは目に相当するものなのでしょうか?確かに私たちは当然のごとく、ヘッドランプを目として捉えているかもしれません。しかし、ヘッドランプが私たちの感性にどんな働きかけをしているかに関係なく、それらが無ければ、私たちは間違いなく道に迷ってしまうことでしょう。
フェラーリのヘッドライトが 75 年にわたってスタイルと機能を進化させてきた様子をご覧ください
フェラーリはこのヘッドランプについて、技術的な面だけでなくデザイン性の面でも大きく貢献しています。熟考と見直しをつねに繰り返しているからです。この点に関し、フェラーリのデザイン部門を指揮するフラビオ・マンツォーニは次のように説明しています。
「フェラーリのようなブランドにとって、ヘリテージはブランドのアイデンティティーを定義するフォーマルな言語です。そこにはフェラーリのモデルを特徴づける、ある種のメタ言語や一定の特徴が存在します。あるボキャブラリーによって、フェラーリのモデルは現代的なものに仕立て上げられるのです。偉大な名作は破壊的である、と私は考えています。私が意図しているのは伝統を途絶えさせてしまうことではありません。伝統に縛られないようにするということです。現在のフェラーリを語るうえで過去を無視することはできませんが、現代性と独創的なアプローチが重要であることを決して忘れてはなりません」。
Daytona SP3を例に挙げてみましょう。マンツォーニのお気に入りである60年代後半の330 P3/4からヒントを得たモデルであるとはいえ、そのデザインと出来栄えは驚くほど現代的です。特に、ヘッドランプの格納式パネルを後方にスライドさせてLEDを露出させるという演出は、過去、現在、未来を見事につなげるものと言えるでしょう。
フェラーリのヘッドライトが 75 年にわたってスタイルと機能を進化してきた様子をご覧ください
初期のフェラーリ・モデルには、シールド・ビーム・ヘッドランプが採用されていました。1939年に登場したヘッドランプであり、パラボラ・リフレクター、タングステン・フィラメント、レンズが一体となって密閉されたものです。ハロゲン・ランプが初めて用いられたのは1962年のことで、ガスとタングステンを反応させることにより、より強力な光を放つことができるようになりました。その後、高輝度放電ランプ(HID)が登場します。ガスと金属を組み合わせて使用するこのランプは、フィラメントが高温になると青白い光を発します。このほか、キセノン・ガス中の電極に高電圧を掛けて放電をさせるという発光方式もあります。
現在のフェラーリ・モデルでは、ランプにLED(発光ダイオード)を使用しています。半導体を使用するこのLEDは、光子が移動する際にエネルギーを放出することで光を生み出します。HIDの寿命が15,000時間であるのに対し、LEDの寿命は約45,000時間におよびます。カラーのバリエーションも豊富で、デザイナーの可能性を広げる要素にもなっています。
Ferrari Testarossaは、「ポップアップ」ヘッドライトを備えた最も有名な車両であるといえるかもしれません
ヘッドランプに関するフェラーリの長い歴史を振り返ってみると、イノベーションとデザインが密接に関係し合っていることを確認できます。ミラノのトゥーリングがデザインした166 MM Barchettaは、表情豊かでエレガントなだけでなく、素朴なルックスを呈している点も特徴です。そのわずか4年後には375 MMが登場。イタリア映画に大きな影響を与えた有名映画監督ロベルト・ロッセリーニのオーダーした車両については、スカリエッティがそのボディを手掛けました。カバーで覆われたヘッドランプ、そしてグリルにはめ込まれた補助ランプは、強烈な印象をもたらします。
自身の妻で女優でもあるイングリッド・バーグマンのためにロッセリーニが注文した車両は、フロント・フェンダーの上部にヘッドランプを隠すという、時代を先取りするスタイルを採用していたことから、2003年に誕生した612 Scagliettiは、バーグマンのための375 MMに敬意を表した1台に仕上げられました。しかし、そのルックスは、すべてにおいて現代的な雰囲気を纏っていたと言えます。
この375 MMの数年後には、成長著しい米国で顧客を獲得していくため、250 GT California Spyderが登場しました。ヘッドランプにカバーを付けるか否か。きわめて希少なショート・ホイールベース仕様車において、この部分はオーナーの好みが分かれるところですが、オープン・ヘッドランプを採用した車両は16台だけでした。
F12berlinetta は新しい LED ライト技術を採用し、より優れた視界と人目を引くデザインを提供します
また、フェラーリ・コレクターの間では、ヘッドランプにプレキシ・ガラス製のカバーを装着したヨーロッパ仕様の初期型365 GTB/4 Daytonaも重要な存在です。
米国では法律上、このヘッドランプをポップアップ式に交換することが義務づけられていたため、90年代末に360 Modenaが誕生し、リトラクタブル・ランプ採用のF355に取って代わるまでは、このポップアップ方式が存続していました。
LEDの登場により、現代のフェラーリ・モデルは顔のフォルムが劇的に変化しています。例えばF12berlinettaの場合、個別のレンズ・ハウジングを有する8つの正方形LEDモジュールが、L字型のポリカーボネート・ユニットに沿って並んでいます。さらにこのユニット内には、LEDモジュールよりも低い位置にプロジェクター・ランプが1つ配されています。
車両全体のデザイン性や印象を決定づける複雑なレイアウトと言えるでしょう。このF12が登場してからの10年間、チェントロ・スティーレ(デザイン・センター)はLEDテクノロジーの可能性に着目し、主要モデルのみならず、数多くの限定スペシャル・モデルにまでLEDテクノロジーを取り入れていきました。きわめて進歩的でフェラーリらしさを感じさせるルックスはこうして生み出されたのです。