フェラーリV8エンジンができるまで
文:アレッシオ・ビオラ
アワードを獲得したツインターボは生きている:呼吸する傑作
フェラーリのロードカーは、どれもが人を夢中にさせるドライビングマシンです。搭載するエンジンがドライバーの心と魂を揺さぶる源泉であることは間違いありません。現行ラインナップのV8エンジンの特徴は、30年ぶりに復活した過給機でしょう。これはフェラーリがこれまで生み出してきたエンジン技術の中で最も栄誉を得た要素のひとつです。このV8エンジンは、名誉あるエンジン・オブ・ザ・イヤーで2016年、2017年と2年連続で最優秀賞を受賞しており、また、パフォーマンス・エンジン部門でも栄冠に輝きました。
鋳造施設、機械加工エリア、エンジン組み立てエリアという3つの重要な場所で、エンジンは命を吹き込まれます。
炉で溶融されたアルミニウムのインゴットからこのプロセスは始まります。この溶けた原料は、シリンダーブロック、クランクケース、シリンダーヘッド、バルブ・ケーシングに形を変えます。過熱した金属の匂いがいたるところに残っていますが、この施設は現代のヘーパイストス(火と鍛冶の神)神殿ではないのです。
そこは明るく、自動ツールや機械が重要な役割を果たすエリアです。約750° C で溶けるアルミニウム合金の鋳造作業さえも、ロボットが行います。ダイカストマシン内部の砂と樹脂 「コア」(オス型)は、溶けたアルミニウムの漏れを防ぐとともに、鋳造後に取り除かれると冷却水の水路や複雑な形状の空間を形成します。これらの鋳造物を単体で見る限り、670hp の出力を発揮するエンジンに必要不可欠な要素であるとはとても思えません。
しかし、これはほんの始まりに過ぎません: アニーリング(焼きなまし)とリカバリー作業の後、これらのコンポーネントは、機械加工エリアに運ばれます。ここでアルミニウムの鋳物は、それぞれ目的に合わせた形状に機械加工され、最後にシリンダーブロックとクランクケースが結合した瞬間、エンジンに姿を変えます。
その間に、クランクシャフトは成形されて行きます。どのようなエンジンであっても、これは最も重要なコンポーネントです。初期加工から半完成品を経て完成品へと進むプロセスは複雑です。最初に粗削り、次いで回復熱処理、ボーリング(穴あけ)、機械での粗加工、粗研磨が行われます。その後、窒化プロセスに数日を要し、2回目の粗研磨プロセス、最終的なラッピング処理と続きます。ひとつのクランクシャフトを製造するのに、都合25日ひどかかります。これはアートであり、同時に工業製品でもあります。そこでは、人間が「ロミオとジュリエット」など、ロマンチックな名前がつけられたロボットと一緒に働いています。ロボットはバルブシートをシリンダーヘッドに取り付け、バルブガイドを組み込みます。
しかし、いくつかのこと――最終デバリング(バリ取り)処理、荒いエッジの円滑化、仕上げなど――は、人による手作業が欠かせません。これらの作業を行うスタッフはフェラーリの「Scuola dei Mestieri」(技術学校)の卒業生です。同校は修了証が授与される、内部トレーニングコースです。
ターボエンジンの重要なパーツ、シールプレートに起きた問題に対して、スタッフが採った解決方法には、彼らの技術力の高さがうかがえます。V8の開発中、ターボの専門家であるコンサルタントは、特定の問題を乗り越える唯一の方法は、エンジン・パフォーマンスを低下させることだ、という結論を下しました。しかし、フェラーリのエキスパートたちは週7日、24時間体制でこの問題に取り組み、1馬力たりとも犠牲にせずに、必要な信頼性の獲得に成功したのです。
エンジンの組立エリアではすべての部品が――シリンダーブロックからヘッドまで、クランクシャフトからバルブまでが――ベンチの上で待機しています。やがてV8は自動的に次々と位置を変え、従業員は様々な作業を完成させます。ここからエンジンはシャトル、つまり異なる組立エリアへ移動する大型カートに移されます。タイミングチェーン、配線を保護するケーシング、電気システムなど、何千もの細いパーツが組付けられていきます。そして最後は完成エリアでの作業となり、ここでツインターボが装着され、その後エンジンはテストベンチに送られます。
最初のテストサイクルが終了した後、トランスミッションが組み込まれ、最終的な実証チェックが行われます。エンジンはボディワーク・エリアへ移動する準備が整いました。そこでフェラーリの「魂」がその「肉体」と出会うのです。そしてここから、まったく新しい別の物語が始まるのです。