そして、カナダ出身のジル・ヴィルヌーヴと彼のFerrari 126 CKは、この市街地サーキットにおいてF1の歴史に新たな1章を書き加えたのです。モナコのレースでターボエンジン搭載のマシンが勝利したのはこれが初めてでした。そして、フェラーリが1年半ぶりに収めたこの勝利は、フェラーリのターボエンジンにとっての初勝利でもあったのです。この勝利によってこれまでの呪いは解かれ、ジルとフェラーリのマシンは再び注目を浴びることとなりました。 ジルが自分のキャリアを通じて獲得したすべての勝利の中で、モナコでの勝利は最も地味で印象の薄いものであったかもしれません。とは言うものの、モナコのレースには、これまでと同様に特別な話題がありました。2週間前、フェラーリは、ヴィルヌーヴとのパートナーシップをさらに2シーズン延長すると発表したのです。スタートから好調さを見せたヴィルヌーヴは、予選を上手く走り切りました。フロントローからのスタートとなったヴィルヌーヴの横には、予選で彼のタイムをわずか1000分の78秒上回り、ポールポジションを獲得したブラバムのピケが並んでいました。レースは1時間遅れでのスタートでした。理由は、ローズホテルの厨房を火元とする火災を消火した際、消防隊の放水した水がトンネル内に溜まってしまったためです。しかし、いったんレースがスタートすると、1周3.312 kmのサーキットにおいてネルソン・ピケはすぐさま集団から抜け出しました。1981年のモナコGPは、異例のレース展開を繰り広げています。レース中、多くのドライバーが悲惨な結末を迎えることになりました。ブラジル出身のピケもその一人で、彼は周回遅れのチーバーとタンベイを追い抜こうとした際にクラッシュしてしまったのです。当時の世界チャンピオンであったアラン・ジョーンズは、肉薄するライバルであったヴィルヌーヴに30秒以上の差をつけていたため、余裕で勝利するものと思われていました。しかし、フィニッシュまで残り7周となった時、ウィリアムズのジョーンズは燃料系統のトラブルにより、ピットインせざるを得なくなりました。彼がサーキットに戻った時、依然としてリードを保っていたものの、ヴィルヌーヴのプレッシャーに対処しなければならない状況でした。ヴィルヌーヴは勝利を予感したことで、次々と最速ラップを刻み始めたのです。カナダ人のヴィルヌーヴは、自分のフェラーリを限界付近で走らせてコーナーを次々にクリアしたほか、全てのラップにおいてガードレールすれすれの走りを見せつけました。しかし、大きなアクシデントを数多く経験してきたことで「アビエイター」と称されていたヴィルヌーヴは、決してミスを犯しませんでした。彼はモナコの市街地コースにおける走りを楽しんでいました。タバコに向うまでのトンネルでマシンのパワーを存分に発揮させると、ミラボーとローズヘアピンの間では軽やかな走りを披露したのです。

フィニッシュまで残り4周となった時、ヴィルヌーヴはウィリアムズのジョーンズを捉え、その後ろにしっかりとつけました。順位の入れ替わりはあっという間のことでした。最終コーナーのアントニー・ノーズを抜けてスタート地点のあるストレートに向かう際、ジョーンズの後ろにつけていたジルがマシンをタックインさせたのです。この時、ジョーンズは右側のミラーでジルのマシンを確認したため、ジルをブロックしようとしましたが、間に合いませんでした。

カナダ人のジルがジョーンズを一気に抜き去ると、その後、フェラーリのマシンに付けられていた27のカーナンバーは、この世界チャンピオンの視界から消えていったのです。23周を残していた時にレースを続けていたのは、全20名のドライバーのうち、トップを走っていたジルを含めわずか7名でした。ジルはその勢いを保ちつづけると、ライバルが燃料ポンプのトラブルに見舞われたこともあり、後方に40秒以上の差をつけてトップでフィニッシュラインを通過しています。表彰台のヴィルヌーヴは疲れ切った様子でしたが、シャンパンを浴びて晴れやかな表情を見せた彼の写真は、たちまち世界中に広まりました。正式な勝者となったヴィルヌーヴは、1965年のジム・クラークに続き、Time誌の表紙を飾った2人目のF1ドライバーにもなっています。

1981年の傑作